歯に力をかけ、歯を動かし、歯並びを整えていく矯正治療。
人間の歯、そして、歯の根っこである歯根は、とても丈夫です。丈夫な歯ですが、患者さまによっては、丈夫を通り越して「まったく歯を動かせない」ことがあります。
まったく歯を動かせないときに考えられる主な原因は、歯根と歯槽骨がくっついているアンキローシス(骨性癒着)です。
今回は、歯科矯正で歯を動かせないことがある「アンキローシス」について、お話しします。
目次
■アンキローシス(骨性癒着)とは?
◎歯根と歯槽骨がくっついている状態です
アンキローシス(骨性癒着)とは、歯の根っこである歯根と、歯を支えている顎の骨である歯槽骨がくっついてしまっている状態です。
アンキローシスの歯は歯根と歯槽骨が癒着しているため、矯正装置で力をかけても、原則として、そのままの状態では歯を動かせません。
■アンキローシスが起きる主な原因
①歯の外傷(歯を強くぶつけたなど)
転んで歯を強くぶつけたなど、歯の外傷により、アンキローシスになることがあります。
歯の外傷でアンキローシスになるのは、衝撃によって歯根を包む歯根膜が損傷してしまい、歯根が直接、歯槽骨にくっついてしまうためです。
②歯が生える途中・重度のむし歯の嚢胞などによる歯槽骨の炎症
歯が生える途中に、何らかの原因によって歯槽骨に炎症が起き、歯根と歯槽骨がくっついてアンキローシスになることがあります。
また、重度のむし歯などが原因で歯根の先端に浸出液の袋(嚢胞)ができた場合、歯槽骨が炎症を起こして歯根とくっつき、アンキローシスになるケースも。
③歯が生える途中で起きる原因不明のアンキローシス
あまり多くは見られないのですが、歯が生える途中で、何らかの不明な原因により、歯根と歯槽骨がくっついてアンキローシスになることがあります。
原因は不明ですが、生まれつき・遺伝などの先天的な要因が関係しているのではないかと考えられています。先天的な原因で起きるアンキローシスは、複数本の歯(歯根)が歯槽骨に癒着しているケースが多いです。
■アンキローシスで動かせない歯は、どうやって矯正するの?
アンキローシスの歯はがっちりと歯槽骨に癒着しているケースが多く、原則として、そのままでは歯を動かせません。そのままでは歯を動かせないため、歯科矯正では、以下のような処置を行い、アンキローシスの歯に対処することがあります。
いずれの方法においても、処置後は時間を空けず、すぐに矯正装置で歯を動かさなければなりません。処置後、時間が空くと、歯根と歯槽骨が再癒着しやすくなります。
1.歯を脱臼させ、歯を動かす
へーベルなどの器具を用い、テコの原理で力をかけ、歯を脱臼させる方法です。抜歯と同じような形で歯を脱臼させる(抜歯の場合は歯根膜の線維を断ち切る)ことで、歯を動かせるようになります。
歯を脱臼させる際は麻酔を用いるため、痛みはほぼ感じません。
2.外科的な手術を行い、歯槽骨を切り離す
癒着の範囲が広い、または、癒着が強く、歯を脱臼させられない場合は、外科的な手術を行うケースがあります。
外科的な手術を行い、歯槽骨を切り離すことで、アンキローシスを起こしている歯を歯槽骨ごと移動し、適切な位置へ歯を動かしていきます。
3.抜歯を行い、補綴をする(補綴:ほてつ=人工歯で歯を補うこと)
歯の脱臼が難しかったり、外科的な手術をご希望されない場合は、器具を用いて歯槽骨を切削した上でアンキローシスの歯を抜き、インプラントなどで歯を補う選択肢もあります。
インプラントにした場合は、人工歯根を埋め入れるため、人工歯は動かせません。インプラントの箇所以外の歯を動かすなどして、工夫しながら矯正を進める必要があります。
なお、ブリッジや入れ歯でも抜いた箇所の歯は補えますが、どちらも人工歯根がない補綴方法であり、安定性に欠けます。歯並びの安定性が求められる歯科矯正には、ブリッジや入れ歯による補綴はあまり適さない可能性も。
【矯正前の精密検査を行い、歯・歯周組織の状態を見極めた上で治療計画を立てることが重要です】
そのままの状態では歯を動かせず、矯正治療に支障をおよぼすことが多い、アンキローシス。
アンキローシスに対しては、矯正を始める前にCT・レントゲンによる精密検査を行い、事前に骨性癒着の有無を確認しておく必要があります。
アンキローシスの有無に関わらず、矯正を成功に導くためには、矯正前の精密検査が大切です。検査結果に基づき、歯科医師が入念に治療計画を立てることで、お一人おひとりの患者さまに適した矯正を進めやすくなります。