
こんにちは。おしむら歯科 院長の押村侑希です。
今回は、「唾液がもたらす驚きの8つの作用」について、お話しします。
歯を保護したり、歯を修復してくれる、唾液。
唾液は歯への作用のほか、消化を助けるなど、全身への良い作用も。
目次
■唾液がもたらす驚きの8つの作用 その①~歯の健康への作用~
◎唾液の分泌が多い方は歯の健康を保ちやすい傾向が見られます
唾液の分泌が少ない方と比べて、唾液の分泌が多い方は歯の健康を保ちやすい傾向が見られます。
歯の健康の維持を含め、唾液には、以下のような様々な作用も。
1.浄化作用
唾液には、歯についた食べかすを洗い流す作用があります(浄化作用)。唾液には、糖分が含まれた食べかすを洗い流すことで、むし歯・歯周病の進行を防ぐ役割も。
2.殺菌・抗菌作用
唾液に含まれるリゾチームや免疫グロブリンAなどにより、唾液には、一部の細菌・真菌の活動を抑える働きがあります。唾液には、むし歯菌・歯周病菌の活動を抑制する(抗菌する)役割も。
{唾液はむし歯菌・歯周病菌を完全にやっつけられるの?}
残念ながら、唾液には、むし歯菌・歯周病菌を完全にやっつけられるほどの殺菌作用はありません。唾液は、むし歯菌・歯周病菌の活動を抑制する(抗菌する)作用に留まります。
3.歯のエナメル質を保護する作用
唾液に含まれるタンパク質(糖タンパク:ムチン)により、唾液は歯の表面にペリクルという膜を作ります。
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むし歯菌が出す酸
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飲食物に含まれる酸
で歯の表面のエナメル質が溶けてしまわないよう、歯の表面にペリクルを作ることで、歯を保護しているのです。
4.歯のエナメル質を修復する作用(再石灰化作用)
唾液に含まれるカルシウムやリンなどのミネラルにより、唾液には、歯のエナメル質を修復する作用(再石灰化作用)があります。
{脱灰と再石灰化のメカニズム}
むし歯菌が出す酸や飲食物に含まれる酸により、私たちの歯は常に溶けています(=脱灰:だっかい)。
脱灰はむし歯の始まりです。脱灰が進み、歯のエナメル質が溶けた状態が続くと、むし歯になります。
歯が溶ける現象である脱灰の進行を抑えるには、唾液による歯の再石灰化が欠かせません。
唾液に含まれるカルシウムやリンの作用により、唾液は歯のエナメル質を修復しています(再石灰化)。唾液のおかげで、私たちの歯は酸で溶けてなくならずに済んでいるのです。
5.口腔内の酸度(pH)を酸性から中性~アルカリ性に戻す作用(緩衝作用)
唾液に含まれる重炭酸塩(重炭酸イオン)などにより、唾液には、口腔内の酸度(pH:ピーエッチ、ピーエイチ、ペーハー)を酸性から中性~アルカリ性に戻す作用があります(緩衝作用)。
{唾液が口腔内の酸度を中性~アルカリ性に戻すことの重要性}
むし歯菌が出す酸や飲食物が出す酸により、私たちのお口の中(口腔内)は、常に酸性に傾く(脱灰しやすい)危険性にさらされています。
[口腔内が酸性に傾きやすい(脱灰しやすい)要素]
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だらだら食べ
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だらだら飲み
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酸度が高い飲食物(柑橘系の果物、炭酸飲料、お酢など)を飲む・食べる
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あまり歯を磨かない
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適切な方法で歯を磨いておらず、歯に歯垢・食べかすなどの磨き残しが付着している
上記のような要素があると、口腔内が酸性に傾き、歯のエナメル質が溶けやすく(脱灰しやすく)なります。
歯のエナメル質を溶けないようにするには、上記のような「酸性に傾きやすい要素」をできるだけ避け、口腔内を中性~アルカリ性に保つ(戻す)ことが重要です。
■唾液がもたらす驚きの8つの作用 その②~お口周り・全身の健康への作用~
歯の健康への作用に加え、唾液には、以下のようなお口周り・全身の健康への作用も。
6.潤滑作用
唾液の中に含まれるムチンというタンパク質により、唾液には、のどを潤したり、食べ物を飲み込みやすくする作用があります(潤滑作用)。
7.味覚作用
唾液の中に含まれる消化酵素のアミラーゼにより、唾液には、炭水化物に含まれるでんぷんを「甘い」と感じやすくなる作用があります(味覚作用)。
アミラーゼによりでんぷんの甘さを感じやすくなることに加え、
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口腔内に唾液が分泌されることで、唾液と飲食物が混ざる
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唾液と飲食物が混ざることで、味を感じる器官である舌の味蕾(みらい)の隅々まで飲食物を運べる
上記のメカニズムにより、でんぷん以外の飲食物の味も感じやすくなります。
8.消化作用
私たち人間は、
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空気(大気)の中に含まれる酸素
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水
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ご飯・麺類・お芋などの飲食物(炭水化物(糖質))に含まれる糖分
の3つをエネルギー源として活動しています。酸素・水・糖分、どれが欠けても、私たちは生きられません。
3つのエネルギー源のうち、生命活動の源(車におけるガソリン・電気)になるのは、主食である炭水化物(糖質)になります。
生きるために欠かせない、炭水化物(糖質)。
ご飯・麺類・お芋などの炭水化物を食べたときは、ブドウ糖が結合したでんぷんの状態です。でんぷんはブドウ糖が結合して作られていますが、でんぷんのままの状態では、私たち人間はブドウ糖を体内に吸収できません。
でんぷんから得られるブドウ糖を体内に吸収し、エネルギー源にするためには、ブドウ糖をさらに小さな分子であるグルコースに分解する必要があるのです。
[食べた炭水化物(でんぷん)をグルコースに分解するメカニズム]
唾液に含まれる消化酵素のアミラーゼにより、唾液には、炭水化物(でんぷん)をマルトースやデキストリンに分解する作用があります。
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唾液のアミラーゼの作用により、炭水化物(でんぷん)をマルトースやデキストリンに分解する
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同様に、膵臓から分泌される膵アミラーゼでも、炭水化物(でんぷん)はマルトースやデキストリンに分解すされる
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小腸の消化酵素(マルターゼなど)の働きで、マルトースやデキストリンがグルコースに分解され、体内に吸収・人間が生きていくためのエネルギー源になる
上記のような「唾液による分解メカニズム」があるからこそ、私たち人間は食べ物(炭水化物)に含まれるでんぷんをエネルギー源として効率的に体内に吸収でき、生きていけるのです。
【唾液の分泌をうながすために、よく噛んでお食事を楽しみましょう】
歯(お口)・全身の健康を保つのに欠かせない、ヒーローのような存在「唾液」。
唾液の分泌をうながすには、食べ物をよく噛むことが大切です。
お食事では、一口につき、30回程度、噛むことをおすすめします。
唾液の作用を高めるために、よく噛んでお食事を楽しみましょう。